第13章 暦と季節の節目——一年の行事に込められてきたもの

日本の暦の仕組みと、一年を通して行われてきた行事の意味をまとめます。行事の日付や作法は、地域や家によって違います。行事を守ることそのものより、季節の移り変わりに気づき、節目ごとに自分の暮らしを見直す合図として役立ててください。

暦という言葉と、暦の仕組み

暦は、日付を知るための道具であると同時に、種をまく時期や祭りの日を決める、暮らしの目安でした。

いま日本で使っている暦は、太陽の動きをもとにした太陽暦です。明治の初めまでは、月の満ち欠けを月の区切りにしながら、太陽の動きで季節とのずれを直す太陰太陽暦(旧暦)が使われていました。切り替えのとき、旧暦の明治五年十二月三日が、新しい暦の明治六年一月一日になりました。いまも、旧暦の日付で行われる行事や、新暦の日付で行うと季節感が少しずれる行事があります。

日・月・火・水・木・金・土の七つの曜日は、太陽と月と五つの星の名から来ています。季節のいちばんおいしい食べ物を「旬」と呼びますが、旬はもともと十日間(上旬・中旬・下旬)を表す言葉でした。旬の時期は地域によって違い、それぞれの土地に旬の暦があります。

お正月

お正月は、その年の神さま(歳神さま)を家にお迎えして、ともに新しい年を祝う行事です。元日からの三日間を三が日、門松を立てておく期間を松の内と呼びます。松の内は七日までとする地域が多く、十五日までとする地域もあります。

門松
歳神さまが降りてくるときの目印(依り代)とされます。松は冬も葉を落とさない木として尊ばれてきました。
注連飾り
玄関や神棚に飾り、歳神さまを迎える場を清めます。
若水(わかみず)
元日の朝に初めて汲む水です。神棚に供えたり、その日の食事に使ったりしました。
書初め
一月二日に、その年に大切にしたい言葉を書く行事です。書いた紙を目に入る場所に掲げる人もいます。
初夢
新しい年に初めて見る夢です。「一富士二鷹三茄子」は、縁起のよい夢の言い習わしです。
お節料理
節目に神さまに供えた料理(御節供)を下げていただくことに由来します。重箱に詰めるのは福を重ねる意味とされ、両端の細い祝い箸でいただきます。食材の一つ一つに、語呂合わせの願いが込められています。
鏡餅と鏡開き
鏡餅は、神さまの鏡をかたどったものとされます。鏡開きでは、刃物を使わずに木槌などで割り、「割る」ではなく「開く」と言います。
お屠蘇
元日に、一年の無事を願っていただく薬草を浸したお酒です。年の若い人から順にいただく習わしがあります。
初詣
年の初めに神社やお寺にお参りすることです。その年の良い方角(恵方)の社にお参りする恵方詣という習わしもあります。
一月後半の行事
七草粥(七日)のほか、七福神をめぐる七福神詣、十五日ごろの小正月と左義長(どんど焼き)、奉公人が実家へ帰った薮入り、正月の祝いを締めくくる二十日正月などがあり、月の終わりごろに一年でいちばん寒い大寒を迎えます。

二十四節気・雑節・七十二候

二十四節気は、一年を太陽の動きにそって二十四に分け、それぞれに季節の名前を付けたものです。昼と夜の長さが等しくなる春分・秋分、昼がいちばん長い夏至、いちばん短い冬至と、四つの季節の始まり(立春・立夏・立秋・立冬)が軸になっています。

二十四節気(それぞれおよそ十五日ずつ)
季節二十四節気
春立春・雨水・啓蟄・春分・清明・穀雨
夏立夏・小満・芒種・夏至・小暑・大暑
秋立秋・処暑・白露・秋分・寒露・霜降
冬立冬・小雪・大雪・冬至・小寒・大寒

二十四節気は大陸の気候をもとにしているため、日本の季節に合わせて補うための目安が作られました。これを雑節と呼び、節分・彼岸・八十八夜・入梅・半夏生・土用・二百十日などがあります。土用は立春・立夏・立秋・立冬の前のおよそ十八日間で、夏の土用がよく知られています。

二十四節気をさらに三つずつに分け、およそ五日ごとの季節の移ろいを、短い言葉で表したものが七十二候です。鶯が鳴き始める、桃の花が咲き始める、といった小さな変化を言葉にしたもので、いまの日本の季節に合わせて改められた形が伝わっています。暦を知識として読むだけでなく、朝の光や風の匂いのような小さな変化を、自分の体で感じ取る手がかりになります。

五節句

節句は、季節の節目に神さまに食べ物を供え、皆でいただく日です。奇数を縁起のよい数とし、奇数の重なる日を節目としたことから、五つの節句が定められました。

五節句(地域によっては旧暦や月遅れで行う)
節句日付主な習わし
人日(じんじつ)・七草の節句一月七日春の七草(せり・なずな・ごぎょう・はこべら・ほとけのざ・すずな・すずしろ)の粥をいただく
上巳(じょうし)・桃の節句三月三日雛人形を飾り、女の子の健やかな成長を願う
端午(たんご)・菖蒲の節句五月五日鯉のぼりや兜を飾り、柏餅や粽をいただく
七夕(しちせき)七月七日笹に短冊を飾り、星に願いを託す
重陽(ちょうよう)・菊の節句九月九日菊の花を飾り、長寿を願う

竹は、節があることで高く伸びても折れにくい、と言われます。暮らしの中の節目も、立ち止まって振り返り、次の一歩を選び直す区切りとして使えます。

月の満ち欠けと呼び名

月が見えなくなる新月を朔(さく)、まるく満ちた満月を望(ぼう)と言います。旧暦では新月の日が月の始まりで、「ついたち」は「月立ち(つきたち)」が変わった言葉だと言われます。月の終わりを「つごもり」と呼ぶのは「月隠り(つきごもり)」から来ています。

三日月
新月から三日目ごろの細い月。眉月とも呼ばれます。
上弦の月
新月から七、八日目ごろの半月。弓張月とも呼ばれます。
十三夜
満月の少し前の月。旧暦九月十三日の月は、十五夜と並んで月見の対象とされてきました。
十五夜(望月)
満月。旧暦八月十五日の月を中秋の名月と呼び、団子を供えて眺めます。
十六夜(いざよい)
満月の翌晩の月です。
立待月・居待月・寝待月
満月を過ぎて月の出が遅くなっていく様子を、立って待つ、座って待つ、寝て待つ、と言い分けた呼び名です。

欠けて見える月も、月そのものが欠けているわけではありません。欠けたものや不ぞろいなものにも美しさを見いだす心は、侘び・寂びとして伝えられてきました。

一年の行事

月ごとの主な行事と、込められてきた意味です。日付は一般的なもので、地域によって違います。

月ごとの主な行事(地域によって日付や形が違う)
月主な行事込められてきた意味
一月お正月(門松・注連飾り・鏡餅・お節)・書初め(二日)・七草粥(七日)・鏡開き・小正月とどんど焼き(十五日ごろ)年の神さま(歳神さま)を家に迎え、ともに新しい年を祝う。書初めは、その年に大切にしたい言葉を形にする機会とされてきた
二月節分(立春の前日)・立春・初午・針供養・梅見・祈年祭・春一番季節の分かれ目に邪気を払い、新しい季節を迎える。祈年祭はその年の実りを祈る祭り。使い終えた針を供養し、道具への感謝を表す
三月桃の節句(三日)・啓蟄・お水取り(修二会)・春分と春のお彼岸・春の社日春分を中日とする七日間に、先祖を偲び、自分の暮らしを振り返る。社日は土地の神さまをまつる日
四月お花見・灌仏会(花祭り・八日)・十三詣り・春の土用田の神さまを迎えて食事をともにした山遊びが、お花見の源の一つとされる。灌仏会はお釈迦さまの誕生を祝う。十三詣りは数え十三歳の子が知恵を授かるお参り
五月八十八夜・端午の節句(五日)新茶の季節。子どもの健やかな成長を願う
六月衣替え(一日)・時の記念日・入梅・和菓子の日(嘉祥)・夏至・夏越の大祓(三十日)一年の折り返しに、茅の輪をくぐって、ここまでの日々の積み重ねをいったん区切る
七月山開き・半夏生・七夕(七日)・御中元・暑中見舞い・夏の土用星に願いを託す。日ごろの感謝を贈り物や便りに託す。土用は季節の変わり目を意識する時期
八月お盆・盆踊り・送り火(五山送り火など)・八朔・夏祭り・花火先祖の霊を迎えて送る。盆踊りは、迎えた祖霊をもてなして送る場とされてきた。八朔は稲の実り(田の実)を願う日
九月二百十日・重陽の節句(九日)・十五夜・敬老の日・秋分と秋のお彼岸(おはぎ)・秋の七草嵐の多い時期を無事に越えることを願う。実りに感謝して月を眺める。秋のお彼岸も先祖を偲ぶ
十月神無月(出雲では神在月)・十三夜・神嘗祭・えびす講・紅葉狩り・秋の土用その年の新しい稲を、まず神さまに供える。紅葉の移ろいに、侘び・寂びの美しさを味わう
十一月亥の子・酉の市・七五三(十五日)・新嘗祭(二十三日)子どもの成長の節目を祝う。新嘗祭は新しい穀物を神さまに供え、収穫に感謝する祭りで、いまの勤労感謝の日に当たる
十二月御歳暮・煤払い(十三日ごろ)・冬至・年の市・正月飾り・年越の大祓・大晦日・年越し蕎麦・除夜の鐘家を清めて新しい年を迎える支度をする。冬至は昼がいちばん短い日で、ここから日が長くなっていくことを、良い方へ向かう節目と重ねてきた

神社では毎朝、神さまに食事を供える日供祭(にっくさい)が行われ、神棚のある家でも、朝に水やお米を供える習わしがあります。祭りは暦の上の特別な日だけのものではなく、毎日の暮らしの中にもある、と考えられてきました。

夏越の大祓と年越の大祓は、六月と十二月の終わりに行われるお祓いです。紙の人形(ひとがた)に身の穢れを移して納める形や、茅の輪をくぐる形があり、くぐり方は社によって違うので、その社の案内に従います。

除夜の鐘は、多くの寺で百八回つかれます。百八という数は、人の心の迷いの数とされてきました。

季節の言葉

月の和風の呼び名(ほかにも多くの異称がある)
月和風の呼び名
一月睦月(むつき)
二月如月(きさらぎ)
三月弥生(やよい)
四月卯月(うづき)
五月皐月(さつき)
六月水無月(みなづき)
七月文月(ふみづき)
八月葉月(はづき)
九月長月(ながつき)
十月神無月(かんなづき)
十一月霜月(しもつき)
十二月師走(しわす)

睦月は、人が寄り集まって仲むつまじく過ごす月、という意味だとされています。月の名前だけでなく、星や雨、風、雪、雲、桜、色などにも、季節の移ろいを映す美しい言葉が数多く伝えられています。たとえばプレアデス星団は、昔から昴(すばる)と呼ばれてきました。

六曜と吉日

カレンダーに書かれている先勝・友引・先負・仏滅・大安・赤口を六曜と言います。中国から伝わり、江戸時代の後期から民間で広まったもので、いまでも結婚式は大安に、葬儀は友引を避けて、というように日取りの目安に使われています。

ほかにも、一粒の籾が実って多くの稲になることにちなむ一粒万倍日、暦の上で最上とされる天赦日、寅の日や巳の日など、さまざまな吉日が伝えられています。

そわかは、日の良し悪しそのものより、その日を、時の巡りを意識して物事を丁寧に始める合図として受け取ります。日取りの良し悪しで、起きたことの理由を説明することはしません。

ケとハレ、しつらい

ふだんの日を「ケ」、祭りや節句などの特別な日を「ハレ」と呼びます。毎日の暮らしと特別な日が交互にめぐることで、一年に区切りと張りが生まれます。

英語の holiday(休日)は、もとは holy day(聖なる日)だったと言われます。特別な日だけでなく、毎日を丁寧に過ごす日として迎える、という心がけも伝えられてきました。

行事や節目に合わせて、季節の草花や身近な自然のものを飾ることを、しつらい(室礼)と言います。床の間がなくても、棚の上や部屋の一角に季節のものを一つ置くだけで始められます。買ってそろえるより、支度そのものを楽しむことが、行事の大切な一部とされてきました。

家族や先祖にまつわる行事について

お盆やお彼岸、母の日、父の日、七五三などは、家族や先祖とのつながりを思う行事です。ただし、これらの行事は、親や先祖に感謝することを求めるものではありません。受け継ぎたいと感じるところだけを選んで取り入れ、受け取らないことを選んでもかまいません。先祖の供養やお彼岸のお参りは、感謝の行いとして伝えられてきました。しなければ悪いことが起きる、というものではありません。

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